週刊柏﨑 第466回_人類の夢と現在の医療について


天高く馬肥ゆる秋、10月であります。あれだけ暑かったのが嘘のようで、朝、晩の犬の散歩に出かける際は、結構厚着をしなければ寒い程であります。夜になると、公園には虫の鳴き声が聞こえ、それなりに風情があります。今年も早、四分の三が過ぎ去り、後三カ月で終わりです。テレビのニュースではおせち料理に受付が始まったことを報道していましたが、本当に一年が過ぎるのはあっという間であります。
10月6日で私は57歳となりました。まさにアラ還、アラウンド60であります。普通であれば、定年に近い年齢でありますが、6年制の薬大に通う娘と、これから大学受験を控える息子を抱えておりますので、まだまだリタイヤなど遠い先の話であります。
皆さんお元気でお過ごしでしょうか。

今週、京都大学の山中伸弥教授がノーベル賞を受賞されることが決まりました。
部門は生理学、医学賞であり、彼が世界で初めて作製した、全身の様々な種類の細胞に変化できるIPS細胞という新型万能細胞が、まさに医学界で画期的な物であったからであります。
元々IPS細胞の前にもES細胞という優れた万能細胞があったのですが、ES細胞は受精卵を壊して作製するといった倫理上の問題もあり、宗教的にも世界中には受け入れられ難いという欠点がありました。このIPS細胞は皮膚細胞などから簡単に作製できるので副作用も少ないし、倫理上も全く大丈夫、というものです。
しかも山中教授自身、商売気が無いので、特許を取っても使用料などで儲ける気はないという、まさにこれからの医学界をけん引するような人柄であります。まあ、これだけのものですから、ノーベル賞は間違いないのですけれど、山中教授自身が言うように、まだ人間でいえば赤ん坊のような段階であって、受賞には次期尚早という声もあったのです。しかしながら、それはそれで大したものであるし、本当にめでたいことであると思います。同じ京都でありますが、京大など恐れ多く、以前、子供達の家庭教師に京大生を頼んでいたぐらいで、全く京都大学とはかかわりは御座いません。
聞いた話ですが、東大に比べて、京大にノーベル賞が多いのは、目先の結果にとらわらず自由に好きに研究ができること、つまり夢のある研究ができる学風によることが大きいということであります。
この山中教授、実は亜流の神戸大出身の医師であったそうです。手先が不器用で手術の際には「じゃまなか」と言われたこともあったそうであります。それで普通の医師を諦め、研究医になっのですが、はっきり言って、正解でした。色々な大学を転々とし、不遇の期間も長かったそうですが、そういう苦労を経験した人が努力で成功することはいいことです。人間的にも人柄が良いという事でありますし、趣味でフルマラソンを走るほど根気強い方のようです。同じ50代として、私の場合、手先が不器用以外は全く比べるような才能はありませんが、私も頑張って、良い父、良い亭主、良い社長にならなければなりません。

今月に入って、流通ジャーナリストの金子哲雄氏が41歳という若さで亡くなられました。
死因は肺カルチノイドという聞きなれない病気であります。肺カルチノイドというのは、カルチ=がん、ノイド=もどきで解るよう、肺がんもどき、ようするに肺がんに比べて危険度が非常に少ない、悪性度が低いものであります。ただしまれに、肺カルチノイドの非定期型という悪性度が高い小細胞肺がんの準じる危険性が高いタイプがあるということでありますが、その確率は0、05パーセントということで、金子氏は運が悪かったとしか言いようがありません。
金子氏に関しては、舌っ足らずの気のいいおじさんという印象があるのですが、私が彼に対し驚いたというか凄いと思ったのが、死ぬ間際に彼がとった行動であります。亡くなられる直前まで仕事に打ち込むという事だけでも頭が下がるのですが、彼は、その間際までに自分自身の葬儀の段取りをしていたというのですから驚きます。
それはお墓の購入から葬儀の料理、参列者に宛てた手紙などまで多岐にわたります。覚悟の上でここまで廻りの人に対する心配り、本当に頭が下がります。推測でしかありませんが、多分、私が考えているよりはるかに凄い人であったと思います。私には絶対出来ないことであります。心からご冥福をお祈り申し上げます。合掌

かたや、絶体絶命の死の淵から帰ったのが、作家のなかにし礼氏であります。彼は末期の食道がん、リンパ節にまで転移していたそうであります。普通であれば、抗がん剤と外科手術が避けられないという段階であったのですが、なかにし氏は医師からアドバイスに耳をかさずに自らが方法を見つけ、陽子線治療という治療法で手術なしで末期がんを克服したのです。陽子線というのは放射線の一種であります。
陽子は水素という最も軽い元素の原子核でそれを加速することによりがんを攻撃して治療を行います。
放射線というのは原発でも解るように強いエネルギーを持っています。その強いエネルギーでがん細胞を攻撃するのが放射線治療でありますが、その強いエネルギーをがん細胞だけに当てられない、他の正常な細胞まで影響を及ぼしてしまう、それが副作用であるのです。それと放射線治療を受けると、細胞が変化してしまい、手術を受ける事が出来なくなる、ですから一回放射線治療を選択したなら、後戻りは出来ません。がんが無くなるまで放射線治療を続けなくてはなりません。
陽子線はピンポイントでがんだけを攻撃でき、しかもがんの部位でその出力を最大に出来るという
画期的なもので、副作用も少ないということであります。まさに究極の放射線治療であるのですけれど、なぜか日本では健康保険が使えません。実費で約300万円近くかかるそうであります。簡単に出せる金額ではありません。
それに以前このコラムでふれましたが、日本の保険制度、混合診療が出来ないということも問題となってきます。なかにし氏は抗がん剤治療と陽子線治療を併用したのですが、一つの病院でこれをすれば、全て自費で払わなくてはなりません。
もし保険と併用しようとしたら、二つの病院を行ったり来たりしなくてはならないでしょう。がんというのは今尚恐ろしい病気であることは変わりませんが、様々な治療法が見つかり、選択次第では社会復帰も難しくなくなっています。その選択は良い方法であれば万民が選べるよう保険適用なされるべきであります。
IPS細胞利用の治療は将来の人類の夢であります。それが一部に人だけが受けられるものであってはならないのです。まあ治療法をうんぬんするより、日々、健康維持を目指したいものです。
病気にならないような強いからだを作ることが一番であることは、今も将来も変わらないでしょう。クロワールシリーズが、少しでも、皆さんのお役に立つと幸いです。

柏崎

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