週刊柏崎 第815回 原油価格が暴落している理由
3月も二週目に入り、すっかり春めいてきました。観光名所では梅や早咲きの桜が満開だったりして、例年であれば京都は多くの内外の旅行者で溢れかえっている頃です。しかしながら、今年は例の新型肺炎で観光名所も繁華街も全くといっていいほど、人が見当たりません。先日、このコラムで取引銀行の支店長が京都の景気がかなりヤバイと言っていたと書きましたが、まだ話す支店長の顔には笑顔なり余裕があったのです。ところが今週その支店長に会った時、笑顔が消えました。
新型コロナウィルスによる新型肺炎の感染は全世界に飛び火して収まることを知りません。今や、日本、韓国、イラン、イタリアは世界中から感染が広まっている危険な国として認識されていて、自由に渡航できない状態であります。日本の感染者数が日々発表されていますが、多分誰もその数を信じていない、日本の感染者の監視体系を見れば、この新型肺炎の感染率でこんな総数で収まる筈が無いからです。
皆さん、お変わりなくお過ごしでしょうか。
この3月11日で東日本大震災から9年が過ぎ去ろうとしています。あの時は、地震のあとの津波で2万人以上の方が犠牲になり、今尚2500人以上の方が行方不明と未曾有の大災害となりました。どんなことが起きようと、時間は止まることなく過ぎていきます。その時間の経過の中で、私達は様々なことから立ち直り、進んでいくのです。決して忘れることは無いと思いますが、前を向いて生きていきましょう。多くの犠牲者、行方不明者の方々のご冥福を祈ります。
2月の後半に政府やコロナ感染症対策本部が日本での新型肺炎が「ここ1~2週間が極めて重要でヤマ場」と国民にアナウンスして、3月10日でその2週目になった訳です。まあ、当然新型肺炎がどうこうなるなんて1~2週間で解決する筈も無く、今度は安倍首相、「正念場」だと言い出しました。また専門家会議は現状を「もちこたえている」としました。もちこたえるという表現はどちらかというと「何とかして凌いでいる」という意味で、決して現状が収束に向かっているとは思えません。しかも影響は「半年、年を超えるかも」はっきりした見通しも立っていませんから、もし今の特俵に足がかかったつま先立ちの状態の「もちこたえる」がそんなに長い間続いたら間違いなく日本の景気はアウトであります。
今週、安倍首相は新型肺炎の感染者のうち「325人は回復」したと言いますが、今や中国の次に感染者が出ているイタリアやイランなどでは、毎日多くの死亡者が出て、私的にはかなりヤバイいんじゃないかとビビっております。
この新型肺炎の世界経済に及ぼす影響が危惧されて、世界の株価は暴落状態です。為替市場においても、1ドル=110円位で長いこと推移していたのですが、これだけ日本の景気が悪化しているのにも拘わらず、数日で1ドル=101円と凄い円高になったりして、もう訳が分かりません。更に世界経済を混乱に導いているのが原油価格です。つい2週間位前に1バーレル=50ドルであったのが、今週30ドルと原油価格の値下がりは株価暴落を遥かに凌ぐものです。新型肺炎の影響により世界経済は間違いなく悪化しますので、経済の血液と言われている原油の価格が下がるのはやむ負えないことです。それにしてもこの短期間で40%の値下がりは、それを考慮しても異常なことです。
これに関しては理由があります。現在、石油を売ることにより国の財政を賄っている産油国はOPEC加盟国など多くありますが、産油量ではサウジとロシアがツートップであります。残る大手のイランはアメリカによる経済制裁の対象国で原油の輸出に大きな制約を受けていまして、以前は多くの原油をイランから購入していた日本も現在はアメリカの要請でイラン原油は買っていません。こういった原油価格が不安定な時は、原油国同士が話し合い、各国の生産量を調整するのが常で、普通であれば原油価格が大きく下がりそうな時は減産に踏み切るのです。ところが、この緊急時に減産に合意せずに逆に増産に踏み切ったのがロシアです。こうなるとサウジや中東の産油国(OPEC)としてもみすみすロシアにお客を奪われたく無い訳で、当然増産には増産で応じるという正に体力勝負、殴り合いにとなっているのが今の原油価格の暴落という状況です。それでは、何故ロシアは減産に応じず、逆に増産に転じたのでしょうか。それはロシアに経済制裁を続けてきたアメリカに対するロシアの仕返しだと言われています。実はアメリカは現在サウジやロシアに匹敵する産油国と言われています。しかし、アメリカの原油はサウジのような産油国の原油と違ってシェールオイルという石油を含んだ泥状の石から科学的に抽出したものです。地中からバンバン湧いて来る原油と違ってシェールオイルは化工が必要でコストが普通の原油よりもかかります。要は、シェールオイルは普通の原油と違って価格が一定であり、市況の影響を受ける原油価格が大きく値上がりしている時はいいのですが、逆に原油価格が下がると競争力を失う訳です。その分岐点は1バーレル=50ドル位と言われています。ですから今の原油価格の約30ドルというのは、アメリカのシェールオイルメーカーからすれば、危機的な状況であります。話は変わりますが、アメリカという国には様々な投資対象がありまして、その中にハイイールド債券というものがあります。ハイイールド債というのは、リスクがある企業が発行する高利率の債券です。利息は一杯貰えるけれど、その発行企業が潰れたらお釈迦になるという所謂ジャンクボンドと言われているものです。実は、今このハイイールド債を発行している企業はシェールオイルの関連企業が多いのです。ご存知の方も多いと思いますが、以前のリーマンショックというのもこのようなハイリスクの債券が原因となっています。今回のアメリカの株式市場の暴落も、勿論新型肺炎の影響もありますが、このシェールオイル関連企業が発行するハイイールド債による信用不安も大きいのです。今回ロシアとサウジがアメリカのシェールオイルを潰すのが目的なら、予想外に新型肺炎問題が終息しても、マーケットは波乱含みと観ていた方がいいでしょうね。(難しい話でスミマセン)
本来であればこれだけ円高で原油価格が下がっていればガソリン価格はもっと下がってもよいのですが、日本はアメリカに強要されて高いシェールオイルを買わされていますので、日本のガソリン価格は中々下がりません。